東京高等裁判所 昭和25年(う)1974号 判決 1950年8月08日
被告人
稲葉稔
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役一年に処する。
理由
前略、論旨は要するに、原判決後被害者中多くの者に対し被害額の一部を弁償したことその他の事由を挙げ、刑の減軽を求むるものである。よつて記録並びに原審及び当審が取調べた証拠に現われた事実を調査するに、原判決の量刑は不当であると認められるからこれを破棄すべきものとする。論旨理由あるものである。但し論旨中、新らたに提出した書面は刑事訴訟法第三百八十三条第一号に該当するから本件は再審の理由あるものであるというが、本件のように原判決後横領又は詐欺の被害者に対し損害の弁償をしたことを示す書面は、刑事訴訟法第三百八十三条第一号に所謂再審の事由となるものではない。憶うに、論旨は前掲示談書を以つて刑事訴訟法第四百三十五条第六号所定の証拠であるというにあるものの如きも、同条第六号に所謂、原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき証拠とは、原判決が認定した犯罪より、その法定刑の軽い他の犯罪を認めるに足る新証拠のことであつて、弁護人提出のような本件横領又は詐欺の被害者との間の被害額についての所謂示談書の如きものを背すのではないから、この点に関する論旨は理由ないものである。